2017年度

女性研究者へのメッセージ

2017年度 女性研究者へのメッセージ

前理事長 児玉龍彦
東京大学 先端科学技術研究センター 教授
<ご意見をお寄せください>
女性の社会進出の度合いは、その社会がどの程度、一人一人の個性を大事に、一人一人を生かしているかのもっとも良い指標と考えられてきました。生命科学と医学薬学の研究を通じて治らない病気の画期的な創薬での治療をめざすアステラス病態代謝研究会は、女性の皆さんのこの領域への参加を心から期待し、どうしたらそれを支援していけるか、日々考えています。少子高齢化社会とはバブル崩壊以降、日本社会がいかに女性の方をはじめ、一人一人を粗末にしてきたかの失われた25年の歴史的な集積です。女性の社会参画を支援し、同時に、妊娠、出産、子育てを女性だけの問題とせず、社会全体で支えていくことが重要です。当財団では、まず女性の活躍について当事者である女性役員を中心としたワーキンググループからの提言を受けそれを第一歩としました。次は、科学者、研究者、技術者からの女性参画への提言、ご意見を求め、それを当財団の今後の助成活動に反映させていきたいと考えています。ご意見をお寄せください。
選考委員長 徳山英利
東北大学 大学院薬学研究科 教授
「生命科学の世紀」と言われている21世紀では、ライフサイエンス分野における女性研究者に対する期待と役割がますます大きくなっています。一方で、我が国における女性研究者、特にPIの割合は欧米諸国と比較しても高くありません。アステラス病態代謝研究会では、選考委員の先生方の中にも各分野を代表する女性の研究者を積極的に招聘し、また、民間財団としてのフットワークを活かしたきめ細かな視点から女性研究者の研究と留学を支援しようと議論を重ねる等、女性研究者支援を柱の一つとしてきました。様々なライフイベントやキャリアの中で、研究環境の整備や研究推進のための梃子として、本財団の助成を利用して頂きたいと願っております。
学術委員会長 後藤由季子
東京大学 大学院薬学系研究科 教授
多くの女性の研究者が思っておられる通り、私も「女性研究者」と呼ばれることには抵抗があります。「女性研究者」であるから特別にサポートするという考えに対しても昔は違和感がありました。しかし出産・子育てについて女性に負担が偏る社会になってしまっている事実と、女性が少ないために若い女性が将来活躍するイメージを持ちにくいという事実は如何ともし難く、女性が不利を被る時期にサポートすることは社会的に必要であると今は強く感じています。本財団の選考委員会では、サイエンスを第一に選考を行いつつ、ライフイベント等研究者の方のご事情をも考慮するという形で、女性の研究者の方々を微力ながら(心の中では精一杯)ご支援させていただいています。積極的なご応募をお待ちしております。
学術委員 山下敦子
岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科 教授
中学生のころにキュリー夫人に憧れ、でもキュリー夫人には程遠い凡人の私が、いま曲がりなりにも研究を続けているのは、先人が拓いた道があり、まわりの方たちの理解と協力にサポートされ、いくつもの幸運に助けられたからでした。アステラス病態代謝研究会は、女性研究者のみなさんを応援しており、みなさんのサポーターの1つになれると思います。本財団の研究助成金や海外留学補助金が、みなさんの研究の重要なターニングポイントや、ライフイベントを乗り越え次に進む、棒高跳びのポールのような役目になれるとうれしいです。そうして、この先を拓いていく女性研究者の方々が少しずつ増えていけば、将来の研究者が「女性であることが理由で」出会うハードルも低くなり、今よりもたくさんの仲間たちと一緒に研究の花を咲かせていける日が来るだろうと信じています。
2016年度最優秀理事長賞受賞者 竹本(木村)さやか
所属機関:名古屋大学 環境医学研究所 神経系Ⅰ分野
研究テーマ名:カルシウム依存的リン酸化経路による新規情動制御機構
様々な理由で思うように時間がとれず研究が進まない時、必要以上の焦りや研究に対する難しさを感じるのは、誰にでも生じ得ることだと思います。私も、限られた時間の中で研究成果を得ることの難しさと日々格闘しながら、研究活動に取り組んでいます。大切にしているのは"初心"と"継続"です。初めて何かを観察、発見した時の感動を忘れずに、独自の発見によって生まれる「アイディア」や「研究の芽」を大切に継続することで、きっと更なる発展があるはずです。「女性研究者」を応援し、「アイディアの先駆性」や「萌芽的研究」が評価対象となる病態代謝研究会の研究助成への応募を是非ご検討ください。申請書を書くことで、自身の研究と向き合う大変良い機会にもなったと感じます。
2016年度優秀発表賞受賞者 小川美香子
所属機関:北海道大学 大学院薬学研究院 分析化学研究室
研究テーマ:がんを特異的に「見る」「操る」システムの構築
「女で良かったね。」研究費やポストの採用にいわゆる「女性枠」が設けられるようになり、しばしば言われるようになりました。女性研究者の皆さまはこの言葉を聞いてどうお答えになるでしょうか。私は「はい。女で良かったです。」と答えます。実際に優先して採用されることが多くなったと感じるということもありますが、今まで女性であるが故に苦労してきたことも多いし、何より使えるものは使えるうちに使っとけと思うからです。逆差別だとの意見もあるかと思います。そうかもしれません。正当に勝負して勝ったんだ、と言いたくなる。そうかもしれません。
でも、いつか、「あなたを」採用して良かった、と言われてちょっとうれしい気持ちになれれば、それで良いのかなと私は思います。
2016年度研究助成金受領者 小田裕香子
所属機関:京都大学 ウイルス・再生医科学研究所 組織恒常性システム分野
研究テーマ:皮膚バリアシステムの自己組織化メカニズムの解明
貴財団研究助成金に応募したのは妊娠の臨月で、産前休暇中でした。昨年度も本助成金に応募し、「申請者の予備的知見に基づいて解明しようとする試み。新規性・臨床的重要性が高い」とコメントをいただきましたが、不採択でした。本年度は、ちょうど自身の着想で始めた新たなプロジェクトが軌道に乗りつつある時期で、出産が重なってしまうことが惜しい気持ちもあり、振り絞って書きました。
双子を出産し、育児は予想を上回る大変さで、自分の時間は全て育児に費やし、それでも時間が足りない状況で、助成金に応募したことも忘れていた中、採択通知をいただきました。毎日を過ごすのもままならないのに、研究に戻れるのか不安になっておりましたが、研究計画を評価していただき、何がなんでもやりたい、と奮い立たせることができました。復帰後は、限られた時間を有効に使いながら研究に励んでおります。貴財団に心より感謝申し上げます。
2016年度研究助成金受領者 田中由佳里
所属機関:東北大学 東北メディカル・メガバンク機構 人材育成部門
研究テーマ:過敏性腸症候群における脳-腸-腸内細菌相関の解明
この度は貴財団研究助成にご採択頂き、心より御礼申し上げます。自身、平成27年度に出産し、現在は育児と研究の両立を目指しております。これまで周囲の女性医師や研究者が出産・育児を機に第一線から退いていく姿をみて、育児と研究の両立ができるのか不安に思っていました。意義がありそうな研究案が加速度的に膨らむ中、出産・育児で研究スピードが遅れたため、研究資金の獲得などが進められるのか心苦しい状態でした。そのような中、本申請案について非常に高評価を頂くことができ、嬉しく思います。研究テーマである過敏性腸症候群は、ストレスと密接に関係する病態が指摘されており、脳-腸を軸とした病態解明が進んできています。夢を追い、日々奮闘している患者さんも沢山いらっしゃいます。微力ですが、そのような方々の背中をそっと押せるような病態解明、治療法開発を目指していきます。
2016年度研究助成金受領者 松尾由理
所属機関:北陸大学 薬学部 医療薬学講座 薬理学分野
研究テーマ:ストレスによる精神障害における脳炎症の関与
女性研究者でなくとも、誰でも様々な背景があり、それぞれの悩みや喜びの中で、研究や仕事を必死に続けられていることでしょう。子を持つ母となると、更に類なく大きな責務が加わります。研究同様子育ても思い通りには進まず、常に、大きな喜びと共に、焦り、嘆き、憤り、諦め、自責といった感情と闘いながら、両立の試行錯誤を繰り返しています。ただ、どんな状況でも夢や目標を持ち続けたいと思っています。学生時代からの夢だった海外研究留学も、6年前に二人の子連れで実現し、素晴らしい経験を得ました。自分の研究室を持つことも夢でした。昨年東京から金沢へ移り、慣れない地での生活・研究室立ち上げの大変さに押し潰されそうな時、本研究助成は、一つの光が射したように本当に大きな励みとなりました。女性研究者への支援は年々増えています。これらを有効に活用し、様々な背景の女性研究者が、夢を抱いて、更にご活躍できるよう心より願います。
2016年度海外留学補助金受領者 齊藤真理恵
申請時所属機関:東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻
留学先:ニューヨーク州立大学 生物科学
研究テーマ:解毒代謝遺伝子の全ゲノム解析でみる人類の適応進化史
このたびは採択していただきありがとうございます。私はゲノム情報学の手法を用いて進化医学的研究を行っているのですが,選考委員の先生から,匿名で心強い審査コメントを頂きまして大変励みになりました。選考においては,現時点での業績だけでなく研究計画や留学目的にも重きが置かれるとのことで,応募をためらっている方にはぜひトライしてみることをお勧めいたします。
留学先の米国では日本と比べ女性研究者がたくさん活躍している印象があります。これからは,いただいたフェローシップを活かし,新たな環境に飛び込んで多様な人々とかかわっていくことで研究者としての能力を高め,人類の知に貢献していきたいと考えております。多くの女性研究者が海外で柔軟な価値観を身に着けることで,日本における研究環境もよりオープンになっていくことを願っております。
2016年度海外留学補助金受領者 藤川理沙子
申請時所属機関:京都大学 大学院医学研究科 臨床創成医学分野
留学先:シックキッズ病院 神経・精神科
研究テーマ:心的外傷後ストレス障害PTSDの治療法探索
貴財団の海外留学補助金に採択頂きましたこと、心よりお礼申し上げます。私は博士課程在学中の応募で業績が少なく、さらにこれまでの研究とは異なる新しい分野に挑戦するので不安がありましたが、「独創性が高い研究や女性研究者を支援する」との貴財団の方針に背中を押され応募させて頂きました。過去の業績だけでなくこれからの研究の面白さを評価して頂けたこと、面接で選考委員の先生からご意見を頂けたことが非常に励みになりました。海外で様々な国出身の研究者と交流しながら多くのことを学び、良い研究ができるよう頑張って参ります。
特に女性はライフイベントの選択に苦悩することが多く、留学に悩む研究者も多いと考えられますが、一度きりの人生ですので、後悔のない選択をして頂きたいと思います。是非世界に出て、多様な価値観の中で自分自身に挑戦してみてください。成果の如何に関わらず自分の糧になる何かをきっと得ることになるでしょうから。
2016年度海外留学補助金受領者 道川千絵子
申請時所属機関:東京医科歯科大学 大学院顎顔面外科学分野
留学先:MDアンダーソンがんセンター 頭頸部外科
研究テーマ:口腔癌リンパ節転移巣における被膜外浸潤の多角的検討
学生時代から「仕事を通して口腔癌患者に貢献したい」という人生目標を抱いてきました。特に、口腔癌頸部リンパ節転移巣における"被膜外浸潤"という術後治療立案のための臨床マーカーに着目し、世界標準を思い描いて細々ながらも研究を続ける中、大学院時代より研究の土台にしてきた先生と学会を通じてご縁をいただくことができました。
夢や目標に対して、誠実に本気で向き合い、決してあきらめずに勇気をもって一歩踏み出せば、様々な方が背中を押して下さることを実感しています。研究内容のみならず、ただただ貢献したいという私の"意欲"を評価してくださった貴研究会に心から感謝申し上げます。
「言葉の壁」「文化の違い」に適応し、研究以前の生活基盤を作るステップに未熟な私は日々疲弊していますが、こつこつと努力し続けていきたいと思います。日本女性の持つ繊細さ、思慮深さや、粘り強さ、真面目さといった特徴は、世界の研究に十分貢献できると信じています。

(注)申請時所属機関:申請時にすでに留学を開始されていた方は留学直前の所属機関です。